404Quest

2024.06.25

1日1,000円で渋谷を遊ぶ

スズキナオ

スズキナオ (作家・ライター)

お金がないと、渋谷はつまらない?

「渋谷はもはや、若者の街ではない」。そう言われるようになって、もうどれくらい経っただろう。1970年代、渋谷PARCO開業を起爆剤にしてはじまった流行の発信地・渋谷の快進撃は、2010年代になると様相を変え、ここ数年は、オフィスエリアとしての存在感を急速に強めている。

「若者の街」ではなくなってくれば、そこで消費される物や文化もおのずと変わるもの。たしかに、かつてと比べれば、今の渋谷は若者のお財布感覚にそぐわない街なのかもしれない。

そこで“悪あがき”してみたのが今回の1,000円企画。「お金はない、しかし時間はある!」。そんな状態で渋谷に放り出されたのは、作家・ライターのスズキナオさん。「1,000円だけ持って、渋谷で一日過ごしてください」。無理難題なミッションですみません……と思いきや、スズキさんのお返事は「けっこう、自信があるかもしれません」。1,000円札を握りしめ、颯爽と渋谷の街に繰り出したスズキさん。はたして、その結果は──。

※掲載情報は、取材時(2024年5月)のものです。現在とは状況が異なる場合があります。

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スズキナオ

作家・ライター

スズキナオ

紹介:東京出身、大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。酒場ライターのパリッコさんとともにチェアリングユニット「酒の穴」としても活動中。著作に『深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと』(スタンド・ブックス)『“よむ"お酒』(イースト・プレス)など。自己紹介で「1,000円以内で楽しめることはだいたい好き」と話したために、本企画に抜擢されてしまった。

INDEX

あの頃、金欠状態で渋谷を歩くのが日常だった

まず、少しだけ自分の話をさせていただきたい。私は現在、大阪に住んでライターの仕事をしているのだが、出身地は東京で、10年ほど前までは池袋近辺で暮らしていた。

20代から30代中頃まで、渋谷にオフィスを構えるIT企業に社員として勤めていて、当然のことだが、平日はだいたいいつも渋谷にいた。仕事が全然できないダメ社員だったこともあってか、生活のために必要な費用あれこれを差し引いて手元に残る額はそれほど多くなく、「普通に働いているのになぜ?」と不思議に思うほどにいつもお金がなかった。

東京時代の作者

それでも仕事のストレスだけは日々蓄積していくもので、退勤時間になって会社を出たらパーッとどこかでお酒を飲んでうさを晴らしたいのだ。だが、居酒屋にいつも飲みにいけるほどの余裕はない。それでどうするかというと、コンビニで買った発泡酒を片手に、とにかく渋谷の街を歩き回るのだった。幸い、当時、私同様お金に余裕のない同僚がいて、いつも二人で仕事の愚痴を言い合ったりしながら、あちこちを歩いた。

そんなことを繰り返していると、隙間なく建物がひしめく大都市に見える渋谷にも、ちょっと腰をおろせるスペースがあったり、お金を使わずに過ごせる場所があったりすることが徐々にわかってきた。お金がなかったおかげで、渋谷に点在するフリースペースについてかなり詳しくなった気がする。

と、そんな私なので、今回の「1,000円しか使えないという条件でどれだけ渋谷を満喫できるか」という企画に対しては、ある程度の自信があった。なんせ、10年前まではまさにそんな縛りの中で過ごしていたのである。その一方、ここ10年の、大規模な再開発によって目まぐるしく変貌した渋谷を少しは知っていたので、自分がよく歩いていた頃とは全然違うかも……と、そんな不安もあった。まあ、とにかくやってみなければわからない。

果たして、所持金1,000円で渋谷を攻略できるのか

まずは「しぶちか」へ。時の流れを噛み締める

平日の午前中、渋谷の街にやってきた。改札を出てまず目に入るのはもちろん……
90年間、渋谷のシンボルを担い続ける「ハチ公」像

スクランブル交差点は今日も賑わっている。ここ最近の国内各地の観光スポットと同様、渋谷も海外からの観光客の姿がとても多く見受けられる。

ハチ公前は記念撮影の列ができているし、スクランブル交差点も人気のフォトスポットになっているようだった

思い出したことがあり、東京メトロ半蔵門線や副都心線の乗り場へと続く階段を下りてみる。

階段を降りた先は、スクランブル交差点の真下にある「しぶちか」という地下街。この「しぶちか」が東京メトロの改札に直結している

「しぶちか」から109方面へと延びる「渋谷ちかみち」という名の通路沿いに「ちかみちラウンジ」という無料の休憩スペースができたと聞いたことがあるのだ。まだ歩き出したばかりなので今すぐ休憩したいわけではないが、そういう場所があるのならこの後のために覚えておきたい。しかし、行ってみるとそのスペースは臨時休業中とのことで閉鎖されていた。残念。

渋谷ちかみちラウンジ
扉には臨時休業中の張り紙が

そのはす向かいにある「渋谷ちかみち総合インフォメーション」は営業している模様。

渋谷ちかみち総合インフォメーション
Wi-Fiがあり、中で販売されているドリンクを購入すると優先的に利用できる座席もあるようだった

あらためて「しぶちか」へと戻ると、「SHIBUYA TERMINAL PHOTO STORY」という、渋谷駅周辺の1940年代以降の変化を写真で振り返ることのできる無料のスペースを発見。

SHIBUYA TERMINAL PHOTO STORY
しばし貴重な写真を眺める
SHIBUYA TERMINAL PHOTO STORY ハチ公50回忌
昨年、生誕100周年を迎えた忠犬ハチ公。約50年前には、ハチ公の命日に秋田犬の「白宝号」が一日名誉駅長に就任していたらしい

もうひとつ、思い出したことがある。たしか「SHIBUYA109」の2階部分に、ベンチの設置された休憩スペースがあった気がする。会社員時代、そこで一休みしたことがあったはず。

渋谷109
109は今年で45周年になるらしい。あと5年で半世紀という衝撃

しかし、行ってみると、広場はあるもののベンチの数はかなり少なくなっていた。うーむ、私が歩いていた頃より、無料でだらだら過ごせる余地がだいぶ無くなっているのかもしれない。

渋谷109広場
座ってゆっくりはできなさそうだ

仕方なく、1階部分に設置された安室奈美恵の手形(引退に際し、本人のゆかりの地として2019年に設置されたものだという)を眺める。

安室奈美恵の手形
手を重ねてみようかとも思ったが、周囲に人がいたので恥ずかしくなって再び歩き出すことに

スクランブル交差点が一大観光名所になっていた

JR渋谷駅西口付近は今まさに大規模な工事の最中で、かつてよくモヤイ像あたりの植え込みに腰かけたりしていたが、そのモヤイ像のある場所も含め、敷地が大きくフェンスで覆われていた。

JR渋谷駅西口

JRと京王井の頭線を結ぶ通路に向かう歩道橋から工事フェンスの向こう側が見えた。

JR渋谷駅西口モヤイ像
白い布で覆われているのがかつてのモヤイ像だろうか

JRと井の頭線の間の通路と言えば、岡本太郎が手掛けた壁画『明日の神話』が展示されていることでも有名である。

明日の神話
明日の神話 ヨリ
真下から見上げるとかなりの迫力

この通路、行き交う人は多いが敷地自体にゆとりがあるため、思い思いの過ごし方をしている人も多くいるようだ。ベンチこそないが、ここは案外ぼんやりと佇める場所かもしれない

北側に面した大きな窓からはスクランブル交差点の様子を高い位置から見下ろすことができる。多方向からやってくる人々が衝突することなく平然と歩いていく様は海外の人々にとって新鮮に映るようで、スマートフォンで動画を撮影している人がたくさんいた。

スクランブル交差点を撮影する人々
旅行サイトの「トリップアドバイザー」でも、“Shibuya Crossing”は英語ユーザーからのレビューが集まる高評価スポットになっているらしい

東急プラザ屋上で、座るのは有料でも絶景は無料!

再び地上へと降り、南側へ歩いてすぐの場所に立つ複合商業ビル「東急プラザ渋谷」に入ってみることにした。

東急プラザ渋谷

2019年11月に開業した施設なので、私にはほとんど馴染みがないのだが、ここの屋上に「SHIBU NIWA」という、無料で入場できるスペースがあるのだけは知っていたのだ。

東急プラザ渋谷 入口
屋上は17階らしい

エレベーターに乗って17階を目指す。たどり着いてみてわかったのだが、なるほどたしかに無料で入れるスペースではあるものの、大部分がカフェ・レストランスペースになっていて「一般通行可能エリア」は敷地の限られた部分だけのようだった。

東急プラザ渋谷 屋上
カフェ・レストランスペースを利用すればオープンテラスの席で食事ができるのだが、所持金1,000円の人間が食べられるのは900円のミックスナッツのみ。ここは我慢である

それでも通行可能エリアの端からは渋谷の街を眼下に見晴らすことができ、開放感を味わうことができた。渋谷駅の北側に長く伸びる宮下公園や、その左奥に広がる代々木公園の緑も見える。

東急プラザ渋谷 屋上から眺める渋谷
この眺めを無料で見られるとは、得した気分

道玄坂を歩き、320円のもりそばに救われる

「SHIBU NIWA」からの眺めは素晴らしかったが、無料で腰をおろしてゆっくりできるようなスペースではないようだった。どこかそういった場所は無いものか……。そう思いつつ目指したのは渋谷駅の南側、玉川通りを渡った先の「セルリアンタワー」だ。

セルリアンタワー
うーん、デカい

「セルリアンタワー東急ホテル」やオフィスの入った地上41階建ての高層ビルで、その中には(おそらく)無料で過ごせるような場所はないのだが、そのタワーのふもとに小さな公園があったはず。会社員時代、かなり頻繁にそこのお世話になった記憶がある。

行ってみると、その公園はまだあった。「渋谷区立桜丘公園」という名で、かなり小さなスペースなのだが、ベンチがいくつか設置されていて、ようやく腰を下ろすことができた。

渋谷区立桜丘公園
私の他にもひっきりなしにベンチに座っていく人がおり、スーツ姿の男性がお弁当を食べたりもしている

商業施設が建って賑やかになるのも結構なことだが、みんなもっとこういう場所が増えることも望んでいるんだろうなと、それを見て思う。

私もこのベンチで昼食を取ろうかと一瞬考えたのだが、ここはひとつ、意地でも安いお店を見つけて入りたい。

道玄坂
飲食店がひしめく道玄坂を歩く

会社員時代の私はコンビニの弁当やカップ麺に頼ることが多かったが、たまには外食もしていた。その頃よく行っていた豚骨ラーメンの「博多天神」の店頭を覗いてみると、最もシンプルなラーメンは替玉一回無料で600円(かつては500円だった)、移り変わりの激しい渋谷にあって昔ながらの雰囲気を残す店「ラーメン王 後楽本舗」の一番安いメニューである「正油ラーメン」も600円。所持金1,000円の中でやりくりしようと思うと厳しいものがある。

博多天神 メニュー

もちろん、この時代にこの価格でやってくれていることはありがたいのだが、なにせこちらには余裕がない(勝手にルールを設けているだけですが)。

ラーメン王 後楽本舗
どちらも好きな店だけど、今回は泣く泣く背を向けて歩く

蕎麦屋の「かけそば」とか「もりそば」を食べるのはどうだろうと思った。あれなら安いのでは。と、行き当たりばったりに探し回ってみる。その結果、「吉そば」の「かけそば」が380円、「富士そば」は「かけそば」も「もりそば」も420円、「十割蕎麦 嵯峨谷」の「もりそば」が400円と、どこももちろん安いものの、やはりそれぐらいはするようだ。

何かにつけて物価の上がっている今、そもそも1,000円で渋谷の荒波を乗り越えようなんて最初から無理だったんだ!と、くじけてしまいそうになる

しかし、「たしかあの辺りにも蕎麦屋さんがあったはず」と、再び井の頭線渋谷駅近くまで戻ってくると、会社員時代にもお世話になった「信州屋」という店が目の前に現れ、外に置かれたメニューによれば、「もりそば」がなんと320円じゃないか!

信州屋
助かったー!と感激しながら入店

座り席も立ち食いスペースも含めてほぼ満席の店内で、蕎麦をすする。蕎麦の量は予想以上にたっぷりあり、東京らしい醤油の濃い風味を感じるつゆも美味しく。ありがたい気持ちでいただく。

信州屋のもりそば
残ったつゆに蕎麦湯を加えれば二度楽しめるし、改めて渋谷でこの価格が保たれていることに驚く

ちなみに、後で気づいたことだが、桜丘町近辺にある「中華食堂 一番館」の「かけらぁ麺」は税込みで300円という価格だった。その手もあったな。

残金680円
とにかく、空腹が満たされたところで残金はまだ680円

ここからはゆったりと過ごせる場所をいくつか探し、コーヒーでも飲んで休憩し、最後はお酒を飲んで帰りたい……と考えてみれば、やりたいことはまだまだたくさんある。

渋谷公園通りギャラリーの展示が充実しすぎ

先ほど見上げたセルリアンタワーの近くには「渋谷区文化総合センター 大和田」という公共施設があり、たまに入場無料の展示イベントが開催されている。

渋谷区文化総合センター 大和田
「何かやってないかなー」と歩いてみるも、取材当日は特にイベントが開催されていない期間のようだった

ちなみにこの施設の12階には「コスモプラネタリウム渋谷」というプラネタリウムがあって、平日でもいくつかのプログラムが上映されている。それを眺めてぼーっとできたら最高なのだが、入場料は大人600円。今日は難しいな。

コスモプラネタリウム渋谷 館内図

ただ、渋谷駅前にかつて存在した「東急文化会館」のプラネタリウムで活躍していた投影機が2階に今も保存されていて、それを眺めることができた。

「東急文化会館」のプラネタリウムの投影機
今では「ヒカリエ」に建て替えられた東急文化会館の目玉施設だったというプラネタリウム。投影機は1957年当時の最高水準機器だったとか

また、敷地内には腰をおろせるベンチなども多く、公共施設なので建物内のトイレを借りることができるし、疲れた時にここで一休みするのはかなりいいなと思った。

渋谷区文化総合センター 大和田 施設内写真
渋谷区文化総合センター 大和田 施設内写真

プラネタリウムに行けなかった悔しさから「何か文化的なものに触れたい」という思いを引きずっていた私は、北へ北へと歩くことにした。

東急百貨店本店 跡地
「東急百貨店本店」が建っていた場所は現在工事中で、建物は跡形もなかった

かつての東急百貨店の屋上は無料で入れる広いスペースになっていて、そこへもよく同僚と昼休みに足を運んだことを懐かしく思い出す。2027年には、同じ場所に高層の複合施設ができるらしく、また見違えるように新しい景色が生まれていくのだろう。

東急百貨店の屋上
あの頃の僕らを癒してくれた東急百貨店の屋上

学生時代によくレコードを買いに来た「シスコ坂」と呼ばれる一角(「シスコ」というレコードショップがこの辺りにあったのだ)を通り、さらに東へ歩いて公園通りまでやってきた。

シスコ坂
シスコ坂。奥の階段を登って左手あたりにレコードショップがあった

通り沿いには「東京都渋谷公園通りギャラリー」というアートスペースがある。

東京都渋谷公園通りギャラリー
東京都現代美術館によって運営されていて、基本的にはいつも無料で観覧できる

取材当日は『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』と題された展示イベントが開催されていて、人や自然と共に生きながら、そのあり方の可能性を探っている作家たちの作品が展示されていた。

『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』展示風景
『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』展示風景
『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』展示風景
『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』展示風景 村上慧さんの作品
すぐ近くの代々木公園から運んできた大量の落ち葉を発酵させ、その熱に直接触れられる村上慧さんの作品
『共棲の間合 ―「確かさ」と共に生きるにはー』展示風景 酒井美穂子さんの作品
やまなみ工房という施設に所属する酒井美穂子さんが28年以上に渡って毎日手で握ってきた即席麺「サッポロ一番しょうゆ味」がずらっと並んだコーナー

このような展示イベントが年に数回開催されていて、無料で観られるという豊かさ。これからは渋谷に来るたびにここを訪れてみよう、と思う。

PARCOから、富士山を借景にビル群を望む

先ほどの展示で見た代々木公園の落ち葉に引っ張られるようにして、せっかくだから公園へも寄ってみることに。

代々木公園 タイフェスティバルの屋台
渋谷側からの入り口周辺は「タイフェスティバル東京」に向けた準備の真っただ中だったが、園の奥へ進めば一休みし放題
代々木公園のベンチ
渋谷の喧騒に疲れた時は、とりあえず代々木公園を目指すのが一番なのかも

公園から再び渋谷の中心地へと引き返す途中、「渋谷PARCO」の建物の上階に木々が茂っているのが見えた。

渋谷PARCO

建物に近づいてみると10階に「ルーフトップパーク」というスペースがあるようで、さっき見えたのはきっとそこだろう。行ってみることにする。

渋谷PARCO ルーフトップパーク
渋谷PARCO ルーフトップパーク
任天堂のオフィシャルショップ「Nintendo TOKYO」などが入っている「渋谷PARCO」だからか、屋上も海外からの観光客で賑わっていた

それほど広い敷地ではないが、のんびりと過ごせそうな場所もある。天気のいい日には富士山が見えるようで、私もその姿を(ぼんやりとだが)目に収めることができた。

渋谷PARCO ルーフトップパークから見える富士山
中央やや右寄りに雪の積もった富士山がかすかに見えるだろうか

奥渋を抜け、西郷山公園で食べるIKEA飯は憩いの味

引き続き歩く。東急百貨店跡地から代々木公園方面へと向かう通りは「奥渋」と呼ばれていて、中心地に比べて比較的静かな街並みに雑貨店やカフェなどが軒を連ねている。私はその「奥渋」エリアにある「SPBS本店」という書店の品揃えが好きで、たまに覗きに行く。

SPBS本店
写真には映っていないが、お店の奥に行くと、ガラス越しに編集部が見えるつくりになっているというユニークな本屋さん

棚に並んだ新刊をチェックし、店頭で開催されていたイラストレーター・中山信一さんの原画展(※)を眺め、よし、これで文化的な欲求もだいぶ満たされた。

※現在は会期終了しています。

ふと気づくと、めちゃくちゃに喉が渇いている。どこかでコーヒーでも買って、何か軽食でもつまみたいな……と思って歩いているところに「IKEA渋谷」の建物が見えてきた。

IKEA渋谷
このIKEA、7階にスウェーデンレストランも併設されているのだが、それとは別に1階にイートインスペースがあって、中で食事をしている人の姿が見える

IKEAのフードメニューと言えば、リーズナブルな価格で有名だ。店内のメニューを見てみると、ホットコーヒーが100円、ホットドッグが100円、ベジドッグが80円、ソフトクリームが50円、とこれは大変助かる。

IKEA渋谷 フードメニュー

イートインスペースでの飲食が推奨されてはいるが、自己責任の範囲でテイクアウトすることもできるそうで、100円のホットコーヒーと、そのおともに80円のベジドッグをいただくことにする。

残金500円
これで残金はきっかり500円となった

で、ここからは完全に私の酔狂というか、やり過ぎたなと後で感じたのだが、IKEAで買ったコーヒーとベジドッグを片手に、そこから南西へ20分ほど歩いた位置にある「西郷山公園」を目指したのだった。

コーヒーをテイクアウトして歩くには少し遠すぎるなとは思っていたのだが、私は会社員時代からその西郷山公園が好きで、そこへもよく歩いていたのだ。高台にある公園で、自然も豊かで素晴らしく居心地がいい。

西郷山公園
今回、どうしてもここでコーヒーを飲みたかったのである(厳密には目黒区だがそこはご愛嬌)

20分以上も歩いたものだから温かかったはずのコーヒーはすっかり冷めてしまったが、それでも、高台からの風景を眺めながら飲むと気分がよかった。

西郷山公園でベジドッグとコーヒーを食べる
ベジドッグもおいしい。なかなかに優雅なひと時ではないか

ベンチに腰掛け、こんな時間のためにとリュックの中に一冊入れてきた『ひまのつぶしかた』という本を手に取る。

『ひまのつぶしかた』
私の大好きなバンド「たま」のメンバーがひまのつぶしかたを123個も紹介している本で、「めくったページに出てきたことを実際にやってみよう」みたいな主旨のものである

よし、これで今後の方針を決めよう、と適当なページを開くと、なんと「ひまつぶしの方法を100考える」とあった。

『ひまのつぶしかた』のページに「ひまつぶしの方法を100考える」と書かれている
「これからもまだまだ暇を潰して行かねば!」と思いを新たに立ち上がり、渋谷方面へと引き返す

楽園は神泉にあり。コンビニ系立ち飲み処「みさわ」で乾杯

目指したのは、神泉駅からもほど近い位置にある「みさわ」という店だ。

みさわ
一見、普通の立ち飲み屋のように見えるが……

この「みさわ」は、もともとチェーンのコンビニだったのが、紆余曲折あって独立経営となった店である。コンビニのような品揃えの店内でお酒が飲めて、さらには立ち食いそばや自家製のおつまみまでいただけるという奇跡のようなスポットなのだ。

みさわ お酒売り場
みさわ 焼酎アレンジ紹介の卓上スタンド
まさにこの企画に打ってつけの、ありがたい店である
みさわ 缶チューハイとハムカツ
180円の缶チューハイと100円のハムカツをいただき、ここまで頑張ってきた自分自身に乾杯!

冷えたチューハイが喉に流れ込み、そのうまさに涙が出そうになる。ソースをかけていただくハムカツもいいアテになる。隣で飲んでいたご常連はこの店から徒歩数分の場所に住んでいるそうなのだが、「渋谷駅の方はたまにしか行かない。混むからねぇ」とおっしゃっていた。渋谷エリアの中にもその場所ごとに地域性があるんだなと、今回歩いてつくづく感じたことである。

「1,000円しか使えないの!?それは大変だ。でもこの店があってくれてよかったね」とその方が言っていた通り、この店だからこそ、もう一杯おかわりすることもできる。「クリアアサヒ」を一缶追加して、しっかりほろ酔い気分になることができた。残り20円。

みさわ クリアアサヒ

残金20円でフィニッシュ。渋谷の夕焼けは誰にも平等に美しい

清々しい気分で外に出てみると夕焼け空が綺麗だった。高いところからもう一度渋谷を眺めてから帰ろうと、駅の方へと急ぐ。

夕暮れの渋谷

渋谷駅に直結する複合商業ビル「渋谷ヒカリエ」までたどり着き、エレベーターに乗って上階へ。11階の「スカイロビー」はベンチも設置された広々としたスペースになっていて、一休みしていける上に眺望もきく。

渋谷の夜景
夕暮れから夜へと美しいグラデーションを作っている空と、その下に広がる渋谷の街並みを眺めつつ、「1,000円でもなんとかなるものだな」と思った

すごく充実した時間だったし、自分が働いていた頃からここ10年の渋谷の変化を肌で感じることができた気もした。そして同時にこうも思った。「せめて2,000円あったらもっと色々できたのにな!」と。

訪れたスポットは全部で18箇所!後日、歩数計を見たところ、1日で26,227歩も歩いていた
credit: 企画編集:河井冬穂/執筆:スズキナオ/撮影:スズキナオ/サムネイル・マップデザイン:猿田真維

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